
長引く咳の診断と治療
長引く咳の診断と治療
「3週間以上続く咳」や、風邪が治ったのにいつまでも止まらない“しつこい咳”は、単なる風邪だけではなく、気管支喘息やアレルギー、胃食道逆流症など別の病気が隠れている可能性があります。ここでは、長引く咳に対してどのように診断を進めどのような治療を行うのかを解説します。
医療機関を受診すると、まず医師は「いつから咳が続いているか」「どんな場面で咳が出るか」「風邪をひいた後なのか」など、咳の経緯を詳しく聞き取ります。咳が長引く背景を知ることで、ある程度の原因を絞り込むことが可能です。
咳以外に、痰(たん)や喘鳴(ゼーゼー音)、胸やけ、鼻水・後鼻漏などがあるかどうかも重要な手がかりになります。また、普段の生活習慣(喫煙の有無、仕事環境、睡眠・食事の状況)も診断の材料となります。
長引く咳の原因を特定するためには、いくつかの検査が行われます。以下は代表的な検査例です。
胸部X線検査
肺炎や結核、肺がんなど、肺そのものに異常がないかをチェックする基本的な検査です。異常が見つかった場合は、より詳細な検査(CT検査など)につなげられます。
呼吸機能検査
(スパイロメトリー)
スパイロメーターという機器を使い、吸ったり吐いたりする空気の量や速度を測定します。気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)など、気道が狭くなっている病気が疑われる場合に有用です。
モストグラフィー
モストグラフィーは、主に「強制オシレーション法(FOT: Forced Oscillation Technique)」を用いて気道抵抗や呼吸機能の変化を評価する検査です。患者様が自然な呼吸をしている状態で、外部からわずかな振動(オシレーション)を与え、その反応を測定します。スパイロメトリーでは見つかりにくい軽度の気道過敏性や隠れた気道抵抗の異常が把握しやすく、咳喘息や軽症の気管支喘息などを疑う際に有用とされています。
呼気NO検査
(FeNO検査)
息を吐き出したときに含まれる一酸化窒素(NO)の濃度を測定する検査です。気道に炎症があるとNOの値が上昇しやすいため、喘息や咳喘息などのアレルギー性・好酸球性の炎症を見分けるうえで役立ちます。検査自体は短時間で行えるうえ身体への負担も少なく、気道の炎症状態を客観的に評価できるのが特長です。
アレルギー検査
血液検査や皮膚テストを通じて、花粉やダニ、ハウスダストなどに対するアレルギー反応があるかを確認します。アレルギー性の咳や喘息が疑われる場合には欠かせない検査です。
喀痰(かくたん)検査
痰の中に含まれる細菌やウイルス、アレルギー細胞の有無を調べます。結核など特定の感染症の判断にも役立ちます。一般的にはクリニックでは頻回に検査することは少なく、専門施設や病院で実施される場合が多いです。
長引く咳の原因が特定されたら、根本的なアプローチを行うことが大切です。原因によって、治療方法は大きく変わります。
吸入ステロイド薬
気道の炎症を抑え、咳や息苦しさを改善する基本的な治療法です。ステロイド剤を直接吸入するため、全身への副作用が比較的少ないのが特徴です。
長時間作用型
β2刺激薬
気管支を広げる薬を吸入して、咳や息苦しさの発作を抑えます。症状の重症度によって組み合わせ方を調整します。
アレルゲン対策
・生活改善
アレルギー要因をできるだけ避ける、室内の掃除や喚起、ストレスケアなどの生活習慣の見直しが重要です。
抗アレルギー薬・
抗ヒスタミン薬
花粉やダニなどへのアレルギー反応を抑えて、鼻水や後鼻漏の量を減らします。
点鼻薬
(ステロイド含む)
鼻の粘膜の炎症を直接抑えることで、後鼻漏による咳を軽減します。
副鼻腔炎の治療
必要に応じて抗生物質が投与される場合があります。
プロトンポンプ
阻害薬(PPI)
胃酸の分泌を抑える薬を使い、喉への刺激を減らします。
生活習慣の改善
就寝前の飲食を控える、食事量や食後の姿勢に気をつける、肥満の解消を図るなどの対策が重要です。
禁煙指導
たばこは気管支や肺に対する最大の悪影響要因です。治療の第一歩は禁煙です。
吸入薬
(気管支拡張薬、ステロイド)
気道を広げる薬や炎症を抑える薬を吸入することで、呼吸を楽にします。
呼吸リハビリテーション
医療スタッフの指導のもと、効率的な呼吸法や運動療法を行い、肺機能の低下を防ぎます。
対症療法
風邪やインフルエンザなどの感染症が治った後も咳だけが残る場合は、気道の過敏状態が続いていることが多いです。吸入ステロイドや咳止め薬を一時的に使用することで、症状を緩和します。
気道保湿・
刺激回避
加湿器などで気道を乾燥から守り、タバコや冷気などの刺激を避けるよう努めます。
長引く咳を治療する際、薬物療法だけに頼るのではなく、生活習慣や環境を整えることも重要です。
過度な乾燥やホコリの蓄積を防ぎ、気管支への刺激を減らす。
ダニやハウスダストをなるべく減らして、アレルギー症状の悪化を防ぐ。
胃食道逆流症(GERD)の場合、就寝前の飲食や過度のアルコール摂取を避ける。
タバコの煙は気道にとって大きな刺激源。COPDや咳喘息の悪化を招くため、禁煙は必須。
長引く咳の治療では、定期的に医療機関を受診し、症状の変化や薬の効果を確認することが大切です。咳の原因がひとつではなく、複数の要因が絡む場合も珍しくありません。その都度、必要な検査や治療方針の見直しを行うことで、より早く症状を改善へ導くことができます。
長引く咳は、単に風邪が“治りきっていない”だけとは限りません。気管支喘息、アレルギー性疾患、胃食道逆流症、慢性肺疾患など多岐にわたる原因が潜んでいる可能性があります。正確な診断を受けることで、その原因に合った治療を選択し、効果的に症状を改善できます。
これらのステップを踏むことで、しつこい咳に悩む日々から解放され、快適な呼吸を取り戻すことができるでしょう。咳が3週間以上続く、夜間に咳き込んで眠れないなどの症状がある方は、放置せず早めに医療機関を受診することをおすすめします。
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