
咳のメカニズム
咳のメカニズム
私たちが日常生活で何気なく経験する「咳(せき)」ですが、実は単なる症状ではなく、身体を守るために備わった重要な防御反応です。
例えば、ホコリや花粉などの異物、あるいはウイルスや細菌などが喉や気管支に入り込んだとき、咳をすることでそれらを外に追い出し、気道や肺をきれいに保っています。
ここでは、咳がどのように発生するのか、その仕組みを分かりやすくお伝えします。
咳の大もとは、喉や気管支、肺といった呼吸器官にある「受容体」が刺激を感知することで始まります。具体的には、以下のような刺激がきっかけです。
物理的刺激
ホコリ、煙、異物など
化学的刺激
刺激の強いガス、有害物質
温度差
急激な冷気や乾燥
炎症による刺激
ウイルスや細菌の感染、気管支の炎症など
こうした刺激を受容体がキャッチすると、神経を介して脳の延髄(えんずい)にある「咳中枢」へ情報が届けられます。すると脳は「気道を守るため、今すぐ咳をしなさい」という指令を出し、呼吸筋や横隔膜、腹筋などに指示を送ります。
咳が起こるとき、身体は大きく3つのステップを踏みます。
はじめに、息を深く吸い込むことで肺の中に空気をたくさん取り込みます。この“溜めた空気”が後で強い勢いで吐き出され、異物を外へ押し出す原動力となります。
次に、声帯のある声門(せいもん)付近をキュッと閉じ、胸や腹部の筋肉に力を入れます。これによって胸の中(胸腔)の圧力が一気に高まり、いわば“蓄えた力”がギュッと押し固められる状態になります。
十分に圧力が高まったところで声門を一気に開放し、強い空気の流れを作ります。この強い呼気の流れによって、気管や喉にある痰(たん)、ホコリ、病原体などが一緒に押し流されて体外に排出されます。
咳は、単に「苦しい」「うるさい」と感じるだけではありません。
身体にとっては“気道のクリーニング”という大切な機能を果たしています。気道内に存在する粘膜は常に粘液を分泌し、異物が入り込まないようにガードしています。しかし、微細なホコリや細菌、ウイルスがどうしても入り込んでしまうことがあります。そのとき、咳をすることで異物が付着した痰を外に出します。
もし咳がなければ、肺や気管支に有害物質が蓄積し、重い感染症を引き起こしてしまう可能性も高まります。したがって、咳は身体が持つ自然の防御機構として非常に重要です。
通常、体内に侵入した異物やウイルスが除去されると、咳は自然に落ち着いていきます。しかし、何らかの理由で咳が何週間も続くときは、慢性的な炎症やアレルギー反応が起きている場合があります。例えば、風邪をきっかけに気管支が敏感になっている「咳喘息」や、アレルギー性鼻炎による後鼻漏(こうびろう)、また胃酸が逆流する「胃食道逆流症」などが隠れていることもあります。こうした状態を放置すると、日常生活に大きな支障が出るだけでなく、より重い病気につながる可能性があるため、早めに医療機関を受診することが大切です。
咳は、身体が自発的に気道をきれいに保つための重要な仕組みです。外部からの刺激や炎症を察知すると、脳の咳中枢が「咳をしろ」という指令を出し、気道内の異物を強い気流によって吐き出します。短期間で治まる咳は通常の防御反応といえますが、長引く場合には別の病気が潜んでいる可能性もあるため、放置せず適切な検査や治療を受けることが必要です。
もし咳が続いて日常生活に支障を感じるようであれば、一度呼吸器内科など専門医の診察を受け、原因をしっかり突き止めましょう。早期の対処によって、症状の悪化や合併症を防ぐことにつながります。
TOP